早稲田ワインアカデミー

ワインに興味はあるけれど、ワインって何だかムズカシそう・・・
ワインを楽しむのに必ずしも知識は要りません。
でもワインの基本を知ると、ワインがもっと楽しくなります。
ブログ「早稲田ワインアカデミー」は、ワイン初心者の方にもワインをよく飲む方にも
気軽にお読みいただける、オンライン・ワイン教室です。

​バイザグラスの初拠点となる【神楽坂ワインハウス by the glass】
2018年11月にオープンしました!
神楽坂ワインハウス バイザグラス
https://www.bytheglass.jp/

ボルドーには1万軒以上のワイナリーがあり、毎年7億本以上のワインを産出し、ボルドーだけでフランスのAOCワインの1/4を生産しています

バイザグラスのソムリエ松沢裕之です。

フランスには大まかに10地域のワイン産地があります。

●ボルドー
●ブルゴーニュ
●ローヌ
●ロワール
●シャンパーニュ
●アルザス
●南西地方
●ラングドック&ルーション
●プロヴァンス(およびコルシカ島)
●ジュラ&サヴォワ

なかでもボルドーブルゴーニュローヌロワールアルザスはそれぞれ、気候や土壌や地域の伝統に基づいた
独特のスタイルのワインを持つ重要な産地です。
いずれも国際的なブドウ品種の本拠地であり、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、ピノ・ノワール、
シラー、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、リースリングといったブドウ品種で、世界中のお手本になるようなワインを生み出します。

これから数回にわたって、こうしたフランスの重要産地について述べていきます。
まずはボルドー地方から見ていきましょう。

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 ▲ボルドーのシャトー・オーブリオン2005年はグッド・ヴィンテージで素晴らしかった


◆ボルドー地方

本当にワインを知るにはフランスワインを知らなければなりません。
それほどフランスワインは重要です。

同様に、フランスワインを知るにはボルドーは避けて通れません。
ボルドーはフランス西部に位置するワイン産地で、フランス第4の都市であるボルドー市を拠点に広がるエリアです。

ボルドーには1万軒以上のワイナリーがあり、毎年7億本以上のワインを産出しています。
ボルドーだけで、フランスのAOCワインの 1/4 を生産しています。

ボルドーワインの9割近くは赤ワインです。
残りの1割強には辛口白ワインと、わずかにソーテルヌのような甘口白ワインがあります。
極々少量ですが、ロゼワインやスパークリングワインもあります。

赤ワインに用いられるのは、主にカベルネ・ソーヴィニヨンメルロー、そしてカベルネ・フランです。
白ワインではソーヴィニヨン・ブランセミヨンです。

ボルドー地方は大西洋に面しているので海洋性気候で、夏は暖かく、冬の寒さも比較的穏やかです。
この海洋性気候は雨をもたらし、とくに収穫時期によく降ることが多いです。

天候は毎年異なるので、ブドウ収穫年(ヴィンテージ)ごとに特徴や品質も変動します。
ぼくも個人的に、ボルドーのワインとブルゴーニュのワインにはとくに、ヴィンテージによる違いを感じます。

ボルドーでも 2000年、2005年、2009年、2010年のように天候の良かった年はグッド・ヴィンテージとなり、ワインはまさに素晴らしいものになります。

そのようなワインはブドウのチカラが強く、若飲みするとタンニンが強すぎたり果実味が荒々しかったりということもあり、ある程度熟成させたほうが真価を発揮します。

ほどよく熟成すると、角が取れてとてもスムーズな口当たりになります。
そのような素晴らしいボルドーに出合うと、ワインという飲み物の奥深さをしみじみと感じます。
でも素晴らしいボルドーはその分、値段も高いのが困ったものです・・・おサイフをしみじみと眺めてしまいますね(笑)

ボルドーは次回に続きます。

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フランスワインのAOCは法的にはみな同等のはずですが、実際には違います ~ より狭いエリアに特定されたAOCであるほど、良いワインだと見なされます

バイザグラスのソムリエ松沢裕之です。

ワインを場所で名づけるフランスのシステムは、AOC と IGP という2つのランクで示すものより、
実際にはもう少し複雑です。

AOCを名乗ることのできる場所はみな、法的にはまったく同等のステイタスを持っているはずです。
しかしワインのマーケットでは、AOCワインはみな同等ではなく、あるものに対してはその特定の優れたテロワールに対して、他のものよりも高い敬意(値段も)払うのです。

典型的に言えば、ある大きなAOCエリアの中には、より小さなAOCがいくつか含まれています。

大きなAOC内で収穫されたブドウから造られたワインには、その広域のAOC名が付されます。
それは、そのAOCで定められたブドウ品種で規定に沿って造られたワインであることを意味しています。

一方、その広域なAOCの中にあるより小さなAOCエリアで造られたワインは、そのより狭く特定されたAOC名を名乗ります。

例として、「AOCボルドー」という広域のAOCがありますが、その中にはより小さなAOCがいくつかあります。
その中の一つであるオーメドック地区で造られたワインは、「AOCオーメドック」と名乗ります。

その「AOCオーメドック」の中にはさらに小さなAOCが存在し、たとえばその一つであるマルゴー村で造られたワインは「AOCマルゴー」と名乗るのです。

ワインのマーケットでは一般に、ワイン名となる場所の名前がより狭いエリアに特定されるほど、ワインはより良いものだと見なされます

もちろん例外はありますが、上記の例ざっくりで言えば、
「AOCボルドー」よりは「AOCオーメドック」のほうが良いワインだと見なされ、
「AOCオーメドック」よりも「AOCマルゴー」のほうが良いワインだと見なされるのです。

このように、ひとくちにAOCと言っても、それが定める範囲は「地方」レベルの広域なものから単一の「畑」までピンキリです。畑名にAOCがつくようなワインは高級で高価です。

●地方 
 (例)AOCブルゴーニュ

●地区
 (例)AOCコート・ド・ボーヌ

●地区に準ずるもの 
 (例)AOCコート・ド・ボーヌ・ヴィラージュ、AOCオート・コート・ド・ボーヌ

●村 
 (例)AOCピュリニー・モンラッシェ

●畑 <特級1級など等級がつく>
 (例)AOCピュリニー・モンラッシェ・プルミエ・クリュ(1級)・ピュセル
 (例)モンラッシェ (グランクリュ = 特級)

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 ▲モンラッシェは Grand Cru 特級畑 ~ 畑名にAOCが付いている


フランスワインのラベルのAOCを見て、それがどのレベルのものかがわかるようになるには、少々勉強が必要です(ソムリエ試験を受けるには勉強する必要があります)。

だからこそ、ワインを知れば知るほど、ワインが楽しくなるんですけどね。。

せっかくワインライフを楽しむのですから、それもワイフワークだと考えて、少しずつでもぜひ覚えてみてはいかがでしょうか。
ワインがますます楽しくなると思いますよ!

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フランスワインの仕組みを理解するためにまず知っておきたいこと ~ フランスワインは「場所の名前」で名づけられ、その産地や畑の「階級」が公的に定められています

バイザグラスのソムリエ松沢裕之です。

ワインの産地を規定するフランスのシステム、
いわゆるAOC制度原産地統制呼称制度は1935年に作られました。

このフランスの制度は、他のヨーロッパ諸国におけるワイン法のモデルにもなっています。
加盟国全体に効力が及ぶEUのワイン法(2012年完全施行)の骨格すらも、このフランスの制度を基にして作られたものなのです。

【関連記事】
AOP,DOP,AOC,DOC,DOCG,DO,DOCa ・・・原産地呼称制度も国によって呼び名が違うなんて、ヨーロッパって大変ですね。。でも産地に対する各国の強い思いが込められています


フランスのワインの仕組み、フランスのワイン法を理解するためには、次の4つのことを知っておく必要があります。
  • フランスワインは、産地名、地域名、村名、畑名など「場所の名前」を名づけられています
    これらの場所は好き勝手に名乗れるものではありません。フランスのワイン法によって認証され、指定されたものです。
  • フランスのワイン制度は「階級的」にできています
    たとえば、Aという場所のワインはBという場所のワインより高ランクだということが、公的に定められています。
  • 一般に、ワインの名前となっている場所が小さければ小さいほど(狭く特定されているほど)、その場所(つまりそのワイン)はより高ランクです。
  • そのワインが法的に高ランクであるからといって、必ずしも他のワインよりも良いとは限りません
    他のワインよりも良い「はずだ」くらいの意味合いです。

    ワイン法はそのワインが生まれた場所の「潜在的な良さ」を評価しているのであって、個々のワインの実際の品質に対する完全な指標というわけではないのです。


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 ▲
Appellation Volnay Premier Cru Côntrolée の表示 ~ Volnay は村名、Premier Cru は1級畑 

認証・保護されたワイン産地のフランスワインには、大きく2つのランクがあります。
ラベルに記載されている下記の表示を見れば、そのワインのランクがわかります。

(1) AOC

AOC は Appellation d'Origine Côntrolée (原産地統制呼称)の略で、
フランスのワイン法が定める最も上のランクです。

d'Origine の部分に具体的な場所名が入っていたり、
(例)Appellation Sancerre Côntrolée

場所名はラベルのほかの位置に書かれていて
Appellation Côntrolée
とだけ記されていることもあります。

(2) Vin de Pays または IGP

Vin de Pays ヴァン・ド・ペィは「地ワイン」の意味で、
この表記の後ろに認定地域の名前が表示されます。

IGPは Indication Géographique Protégée
(地理的表示保護)というフランス語の略で、
2012年に完全施行されたばかりのEU新ワイン法に基づく表記法です。

フランスでは 2011年10月までに Vin de Pays からEUの定める IGP への移行を完了しましたが、
それ以前に造られた Vin de Pays と書かれた商品も、まだいくらか流通しています。

Vin de Pays または IGPとして指定されたエリアは通常、AOCの指定範囲よりも広域なエリアです。


もし上記 (1) (2) のいずれもラベルに記載されていなければ、それは「地理的表示のないワイン」
すなわちフランスのどこかで造られた、いわゆる日常消費的ワインということになります。

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フランスはワインのデファクト・スタンダードをつくった国であり、世界のワインのモデルとなる国 ~ フランスはぼくたち世界中のワイン飲みにとって "標準" となる国です

バイザグラスのソムリエ松沢裕之です。

当ブログではここまで約90記事にわたり、ブドウ品種、ワインの種類や名前、ラベルの表示、技術的な用語などについて述べてきました。

今回からはワインの主要産地について書いていこうと思います。

まずは世界のワイン産地の原点ともいえる、フランス、イタリアをはじめとするヨーロッパの代表的な産地について、各地方の伝統的なブドウ品種は何か、代表的なワインは何かなどを見ていきます。

それではフランスから始めましょう。

french_map


「フランス」という言葉を聞くと、あなたは何を思い浮かべますか?

ワイン!と答えたあなたは、もうすっかりワインにハマっていますね (笑)

ボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュといった名前はワイン産地として有名ですが、
そこにも人々の暮らしがあり、みな働き、食べ、ワインを飲んでいるのです。

昨今のフランスは、とくに若い人を中心にワインの消費が減っている傾向にありますが、
それでも世界的に見れば、国民一人当たりのワイン消費量が多い国の一つです。

ことワインの世界に関しては、フランスは、ぼくたちのような世界中のワイン飲みにとって "標準" となる国です。

ぼく自身も個人的に言えば、ブルゴーニュ、ロワール、シャンパーニュなどフランスのワインが大好きです。

では、なぜフランスはワインの世界で最も有名で、中心的な役割を果たす場所になったのでしょうか。

● 第一に、フランスは非常に長きにわたってワインを造ってきたからです。

それこそローマ人がガリアと呼ばれたこの地を征服してブドウ樹を植えるよりも前から、とっくにギリシャ人がここにブドウを植えてワインを造っていました。

● 同じく重要なのはフランスのテロワールです。

気候と土壌の魔法のようなコンビがここに存在し、素晴らしいワインになるブドウができるのです。
そのブドウたるや・・・
カベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネ、メルロ、ピノ・ノワール、シラー、ソーヴィニヨン・ブランといった、世界中の名だたる有名ブドウ品種のほとんどがフランス由来のものです。


いわば、フランスは
ワインのデファクト・スタンダードをつくった国であり、世界のワインのモデルとなる国です。

ワインを生産する国の多くは、いまでこそカベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネ、メルロー、ピノ・ノワール、ソーヴィニヨン・ブランといった品種で独自のワインを造っていますが、

それも、もとはと言えば、こうしたブドウが初めにフランスで成功し、実績をつくったお陰なのです。

ブドウ以外でも、原産地呼称制度を定めるワイン法、格付けや等級など、ワインに関する多くの分野で、フランスは世界のお手本を作りました。

次回以降、こうした世界のワインのモデルとしてのフランスについて、すこし詳しく書いていこうと思います。

たぶん量が多くなるので何回かに分けて述べますが、どうぞお付き合いください!

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あえて清澄・ろ過をしない ”自然派” ワインにも一長一短があります ~ ワイン本来の特徴や複雑な風味が保てる反面、色は濁って瓶内で変質するリスクも

バイザグラスのソムリエ松沢裕之です。

生産者にとって、自分たちのワインは "自然派" です (あたかも他のワインは自然ではないかのように)とアピールするのは、なんとなくカッコよく見えます。

そのような "自然派" アピールにも、ワイン造りのことを言っていたり栽培方法のことを言っていたりと様々なかたちがあります。

ワイン造りのことを言っている場合は、清澄・ろ過をしていないことで "自然派ワイン" だとアピールしているものが多いですね。

生産者はたいてい、ワイン熟成の最終段階で、瓶詰め前にワインを精製したりフィルターにかけたりします。これを清澄・ろ過といいます。

清澄とろ過について、簡単に復習しておきますと :

・ 清澄
・・・できあがったばかりのワインには不純物がいっぱい残っています。
そこで、ゼラチンや卵白のようなネバネバした物体をワインの中に入れて、この物体に不純物がくっつき、一緒に容器の底に落としていく作業です。

・ ろ過
・・・清澄してもなお残っている微小物を、フィルターにかけたり遠心分離機にかけたりして取り除きます。

こうした工程の目的は、ワインをキレイにすることです。

つまり、瓶詰め後に瓶内でワインに悪影響を与える可能性のある細かな固形物、具体的には酵母の死骸や細菌などの微生物を除去し、品質を安定化させるためです。

しかし、この工程がワインが本来持つデリケートな特徴や風味成分までも取り除いてしまうとの批判もあります。
実際、人為的なテクニックを嫌う一部のワイン愛好家の間では、清澄やろ過を行わないワインのほうが良いワインだと信じている人もいます。

そのため、あえて清澄・ろ過をしないでワインを瓶詰めする生産者もいます。

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 ▲
ni collé, ni filtré (清澄もろ過もしていない)との表示


◆ノン・コラージュ Non Collage

ワインの清澄を行わないことです。
微細物が残っているのでワインの外観はやや濁りますが、その分複雑な風味のワインになることがあります。

◆ノン・フィルトラシオン Non Filtration

ろ過を行わないことです。
ノン・コラージュと同様にワインの外観の清澄度は低下しますが、複雑な風味のワインになりやすいといえます。

フランスワインのボトルラベルに

non filtré
という表示を見たら、それは「ろ過をしていない」という意味です。

清澄もろ過もしていないワインの場合は
ni collé, ni filtré

(清澄もろ過もしていない)
と書かれています。


そうしたワインはうまみ成分が残りやすい反面、少々濁った外観をしており、酵母や乳酸菌などの微生物がワインに残っているので、瓶内でワインが変質してしまうリスクがあります。

これは難しい問題です。

清澄もろ過も、注意深く行えばワインに弊害をもたらすものではありませんが、
過度にやりすぎると、たしかに微小な風味成分まで除去してしまい、単調な風味のワインになってしまいます。

この辺は、やはりバランスが大事なのでしょうね。。

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飲みやすい赤ワインを造る技術 ~ ミクロ・ビュラージュは人為的に樽熟成と同効果を狙い、マセラシオン・カルボニックは色のよく出ている割に渋みの少ないワインになります

バイザグラスのソムリエ松沢裕之です。

ワインに骨格や風格、ボディを与えるタンニンは、赤ワインにとって不可欠なものです。
しかし、タンニンが強靭すぎると口内でギシギシ感じて飲みづらく、
またワインの種類やスタイルによってはタンニンが穏やかであるほうが、むしろ好ましいものもあります。

ワインによっては「タンニンが柔和」「タンニンがよく溶け込んでいる」というのは、ほめ言葉になります。

生産者はブドウが十分に完熟してから収穫を行ったり、発酵時間や発酵温度をよく管理することで、タンニンをソフトにする工夫をしていますが、そのほかにも専門的な技術がいくつかあります。

今日はそのようなタンニンの度合いをコントロールする技術をご紹介します。


ミクロ・ビュラージュ Micro Virage

人為的にワインに酸素を供給することで、
ミクロ・オキシジェナシオン Micro-oxygénation とも言います。
英語ではマイクロ・オキシジェネーション、直訳すれば「微小酸素供給」です。

ミクロ・オキシジェナシオンは、発酵中または熟成中の赤ワインにごく微量の酸素を吹き込むことによって、ポリフェノールの酸化等を促進する技術です。

もともと、フランス南西地方のマディラン Madiran でタナ種 tannat というブドウから造られる、強烈なタンニンを持った赤ワインの渋味を柔らかくするために開発された技術です。
現在ではボルドー地方などでも用いられています。

madiran
 ▲フランス南西地方のタンニン豊富なワイン「マディラン」


樽熟成の赤ワインは、木樽の中で長期間にわたり、やさしく安定的な酸素の供給を受けることでタンニンが柔らかくなるわけですが、
こうした樽熟成と同じ効果を人為的・短期的に狙うものだといえます。

ミクロ・オキシジェナシオンの効果は次の3つです。

タンニンの口当たりが柔らかくなる
②木樽を使わなくてもワインの色が安定する
③不快臭の低減や発生防止

ミクロ・オキシジェナシオンはタンニンをソフトにするため、ワインの飲み頃を早めてくれるというメリットがありますが、
逆に言えば、長期熟成を目的とするワインに使用するのは不適切な技術だといえます。

ワインをどんどん早く飲んでもらいたい生産者によっては大変便利なテクニックですが、
一方では、あまりにも人工的だという批判の声もあります。


◆マセラシオン・カルボニック Macération Carbonique

マセラシオン・カルボニックとは、収穫して未破砕の黒ブドウを房ごと密閉タンクに投入し、炭酸ガスの気流中に数日間置く方法です。

その後ブドウを圧搾して果汁を得て、白ワイン同様に果汁だけを発酵させる、赤ワイン用の技術です。

ブドウの細胞内で発酵が生じることによって、短期間で色素が抽出でき、色のよく出ているわりには渋みの少ないワインになります。

ボージョレー・ヌーボーなどフレッシュ感を味わう赤ワインに用いられています。


こうした用語を知らなくてもワインを楽しむことはできます。
でも、ワイントークのなかでしばしば耳にするコトバですので、知っているとワインがより楽しくなると思いますよ!


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シュール・リーはミュスカデや甲州、MLFは赤ワインやシャルドネの高級白ワインに多く使われるワイン醸造テクニック ~ 風味を引き出したり酸味を抑制したり様々な工夫があります

バイザグラスのソムリエ松沢裕之です。

ワイン醸造に関するテクニック、今日は「シュール・リー」と「マロラクティック発酵MLF)」をご紹介します。
どちらもワインライフを送っていると、わりと耳にすることの多い用語です。


◆シュール・リー Sur Lie

Lie(英語では Lee)とは、アルコール発酵後にタンクなどの容器の底に下りてくる、酵母の死骸等の沈殿物のことです。
いわゆるオリ
澱、滓)です。

こうして沈殿したオリはワインと接触するうちに、より複雑な風味を生み出すことがあります。
そのため生産者によっては、ときどきワインの入ったタンクの中のオリをかき混ぜたりします。

白ワインでは、アルコール発酵後もオリ引きを行わず、
そのまま発酵槽の中に放置して、沈殿したオリの上でワインを半年程度接触させておくことがあります。

これをシュール・リーといい、オリ由来の風味をワインに取り込むのが目的です。

フランス・ロワール地方のミュスカデが代表例で、日本の甲州でもよく行なわれている方法です。

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 ▲シュール・リーされている甲州のワイン


◆マロラクティック発酵 Malolactic Fermentation

マロラクティック発酵は一般にMLFと呼ばれており、ワインの酸味を緩和して口当たりをまろやかにするために行なう二次的な発酵のことをいいます。

MLFは乳酸菌の働きで、リンゴ酸(酸っぱい酸)をまろやかな酸(乳酸)に変える発酵です。

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MLFは自然にも起こりますが、ワインの生産者はこれを人為的に行なったり、逆に防いだりするようコントロールしています。

MLFには、

①酸味がやわらかくなる
②風味が複雑になる

という2つの効果があります。

赤ワインでは、ほぼ必ずMLFを行ないます。

白ワインの場合は、ワインによります。
MLFには白ワインにバターのような複雑な風味を与える一方、はつらつとした果実味を低減させてしまう面もあります。

そのためリースリング、ソービニヨン・ブラン、ミュスカデなどのようにスッキリとした酸味や爽やかさが命の白ワインを造る場合はMLFしません
まろやかな白ワインにしたい場合はMLFを行ないます
(多くはシャルドネの高級ワイン)

【関連記事】(赤ワインの造り方)
赤ワインのタンニンは、ブドウの果皮も種も丸ごと漬け込むマセラシオンで生まれる



なお、酸味の程度を測る指標として pH(ペーハー)があります。

pH値の低いワインは酸味が豊富に感じられます(おおむねpH値3.4以下)。
逆にpH値の高いワインは酸味が穏やかになります。

ただし、多かれ少なかれ、
ワインはみな酸味を持っています。

一般の飲み物では、酸味というのはあまり好ましくないものですが、
ワインにおいては酸味はフレッシュ感を出したり味を引き締めたりする重要な役割を果たします。
そのため、造ろうとするワインの酸味をどの程度にコントロールするかが技術的な関心事となるのですね。

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アメリカ西海岸料理を楽しみながらワインとの相性をみんなで探る、お気楽ワインセミナー「アメリカ西海岸料理とワイン」をVASHON日本橋兜町店で開催しました!

バイザグラスのソムリエ松沢裕之です。

きのう6月14日(水)の夜、お気楽ワインセミナー「アメリカ西海岸料理とワイン」を開催しました。
アメリカ西海岸料理を楽しみながらニューワールドワインとの相性をみんなで探るワイン講座です。

会場は、
東京・日本橋のVASHON日本橋兜町店。
こちらでのセミナーは、先月に続いて2回目となります。

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はじめに恒例の、ソムリエール犬飼雅恵によるスパークリングワインの抜栓から・・・
のはずが。。

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んっ?・・・ カ、カタくてコルクが抜けないっ!(汗)

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ゲストの方に、男性のチカラで抜栓していただきました。
ありがとうございます!(汗)

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お待たせいたしました! 
では、乾杯~!!

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今回の一皿目は、季節野菜の盛り合わせ
グリル、ボイル、そのままの、3通りの食べ方で、
トマト、ホワイトーチーズ、アボカドの3種のソースにディップして楽しみます。

生で食べられるかぼちゃ「コリンキー」など面白い野菜も。
野菜の自然な甘味と旨みがよく出ていて、美味い!のひとことです。

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季節の野菜たちには、ニュージーランドのマールボロー地方のソーヴィニヨン・ブランを合わせました。
「これは、よく合いますね!」
と、皆さん一致した意見 ^^

ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランが持つ完熟したグレープフルーツのような果実味、青草のようなニュアンス、後味に心地よくのこるほのかな苦味が、
野菜のもつ自然な風味、甘味、旨みと口の中で絶妙に調和します。

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二皿目は、オマールのオーブン焼きです。
貝類、ハーブ、フレッシュトマトのソースで、非常にデリケートな味わいに調理されています。

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オマールにはアルゼンチンのメンドーサ地方のシャルドネを合わせてみました。
色が濃く、アルコール度数も14.5%とかなり高いシッカリめの白ワイン。

このフルボディのシャルドネが持つ厚み、意外に豊富な酸味、果実味から来るかすかな甘味が、
オマールが持つ食感、上品な味わいのソース、そして後味に残るほのかな甘味と見事にマッチ!

ちなみにこのオマール、調理の加減も味付けも最っ高に美味いです。
さすが、フランスの一つ星店で修行した経験のあるシェフだなぁと感動しました。

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三皿目は、このお店の看板商品 VASHONバーガー
お肉の焼き方も選べる、アメリカ気分満載のジューシーなグルメハンバーガーです。

フルだと食べきれないので(笑)、ハーフにして頂きました。

このハンバーガー、本当に美味いです。
かぶりつくもよし、ナイフとフォークで食べてもOK!
ハンバーガーという食べ物に対するイメージが変わります。

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VASHONバーガーには、アメリカンな赤ワインということで
カリフォルニアの代表的ブドウ品種ジンファンデルを合わせました。

肉の質感あふれるジューシーなハンバーガーに、
ボリューム感がありジューシーな味わいのジンファンデルが、とてもよく合いました。

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食べ終わった頃には、お酒も入って完全に打ち解けたムードです。
料理とワインの相性が良すぎたのか(笑)、すぐにグラスが空っぽになってしまう男性がいたので、ツッコミを入れてみました ^^

あっという間に予定の2時間が過ぎ、この後も30分くらい歓談が続きました。

VASHON日本橋兜町店でのお気楽ワインセミナー、
来月は7月12日(水)に開催
します。

先月・今月と「アメリカ西海岸料理と新世界ワイン」というテーマで行ないましたが、
腕とセンスのよいシェフがいて、ワインによく合う美味しい料理が食べられるお店なので、

来月からは「カジュアルなグルメとワインを気軽に楽しむ」といったコンセプトで、
ヨーロッパのワインも交えたワインセミナーにしていきたいと思います。

ご興味のある方、職場が近い方、ぜひご参加ください!

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発酵温度によってワインのスタイルも違ってきます ~ 近代的なワイン造りは、発酵温度を人為的にコントロールできるようになったことから道が開けました

バイザグラスのソムリエ松沢裕之です。

「ワイン醸造」に関するテクニックや用語についてご紹介しています。
前回まで木樽の使用、樽発酵と樽熟成の違いについて述べました。

ワイン造りのテクニックはほかにもいろいろあります。
代表的なものを説明していきます。


◆発酵温度管理

近代的なワイン造りは、冷却装置を備えたステンレススチール製タンクやコンピュータ制御による冷却設備を利用することにより、人為的に発酵温度をコントロールできるようになったことから道が開けた、と言っていいでしょう。

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 ▲冷却装置を備えたステンレススチール製タンク


アルコール発酵の温度は、白ワインでは12℃~25℃くらい、赤ワインでは25℃~34℃くらいとなりますが、
この発酵温度が最終的にできあがるワインのスタイルに大きな影響を与えます。

そのため、発酵温度管理は非常に重要なのです。

アルコール発酵をしている間、酵母は糖分をアルコールと二酸化炭素に分解するだけでなく、ほかにも様々な物質を微量に作り出しています。

そうした物質は当然、ワインの風味に影響を与えますが、生成される物質の種類や量は発酵条件によっても異なり、なかでも発酵温度は大きなポイントとなるのです。

アルコール発酵という化学反応は熱を生み出すので、発酵中のワインに何も手を加えずそのままにしておくと、温度は30度以上にもなります。
これを、造ろうとするワインのタイプに応じて、人為的にコントロールするのが温度管理です。

白ワインでは、15℃以下の低温で発酵させるとフレッシュでフルーティーなタイプのワインになります。
いっぽう20度以上の高めの温度で発酵させると、口当たりがふくよかで肉厚なワインになります。

ですから爽やかでシンプルなタイプの白ワインは低めの温度で、複雑感を伴う高級タイプの白ワインは高めの温度で、発酵させます

赤ワインでは、白ワインと同様に高めの温度で発酵させると複雑感のある高級タイプのワインができやすくなります
また温度が高めのほうが
マセラシオン時の抽出効率も高まります。
紅茶でも、ぬるま湯よりも温度の高いお湯のほうが、色も成分もよく抽出されますよね。

しかし、発酵温度が35℃を超えるようになると、酵母が高温に耐えられず死んでしまい、アルコール発酵が途中で止まってしまうというリスクがあります。
そのため30℃くらいを上限にして温度管理を行なうのが普通です。

またピノ・ノワールのようにアロマが華やかでエレガントな赤ワインを造るときは、温度を低くして意図的に発酵を遅らせることが行なわれています。
発酵前低温マセラシオン」といい、果皮・果実・種子
を漬け込んだ果汁を発酵開始前に一定期間、低温で静置し果皮成分を抽出させることによって、色合いやアロマ、果実味の華やかなワインになります。

こうした温度管理は50~60年ほど前は革命的な手法でしたが、いまではどのワイナリーでも行なう当たり前の手法となっています。

発酵温度管理と関連してステンレススチール製タンク、いわゆるステンレス・タンクについても少し触れておきましょう。

ステンレス・タンクは、白ワイン・赤ワインを問わず、現代ではほとんどのワインの発酵に使われる衛生的なステンレス金属製の大型の容器です。
たいてい温度管理装置が備わっています。

ワインの生産者が「このワインはステンレスタンクで発酵を行なっており・・・」と言うのを聞いたら.、
それは次の3つのうち、いずれかの意味だと考えてよいでしょう。

①ブドウ本来の風味を生かすため、このワインには木樽を一切用いていない。
 (ソーヴィニヨン・ブランやリースリングなどアロマティックなワインは通常そうです)

②このワインは樽発酵はしていないが(つまりステンレスタンクで発酵)、樽熟成を行なっている。
 
③自分たちのワイナリーがステンレスタンクのような設備に多額の投資をしていることをアピールしている。


ぼくたちが日頃飲んでいる様々なタイプのワインも、こうした温度管理の工夫に知恵が絞られているんですね!

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「樽発酵」か「樽熟成」か・・・そこが問題だ ~ 発酵から熟成まで木樽を使用したワインよりも熟成だけを木樽で行なったワインのほうが樽香が強くなるフシギ

バイザグラスのソムリエ松沢裕之です。

ワイン造りにおける木樽の使用には、「樽発酵」と「樽熟成」の2通りがあります。

●樽発酵
・・・ブドウ果汁を木樽に入れて、樽の中でアルコール発酵させてワインにする。

●樽熟成
・・・すでに発酵を終えてでき上がったワインを木樽に入れて、樽の中で数ヶ月から数年かけて熟成させる。

樽発酵の場合は、ブドウ果汁が発酵を終えてワインになっても数ヶ月はそのまま樽の中に静置して熟成させます。
つまり、樽発酵させるときは樽熟成もセットで行うのが普通です。

ですから、あえて「樽熟成」と言う場合は熟成だけを木樽で行ったものであり、
ワインの発酵は木樽ではなくステンレスタンクなどの容器で行われたものと考えて良いでしょう。

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 ▲ワインを熟成中の木樽(山梨・勝沼にて)


「ブドウ果汁を樽に入れ、ワインになったら樽から出す」というのが典型的な樽発酵のやり方ですが、
こうした典型的な樽発酵は白ワインを造るときに行われ、赤ワイン造りではあまり行われません

その理由は非常に現実的なものです。
赤ワイン造りでは果汁と果皮、実、種などをまるごと漬け込んで、色素の抽出を行いながら発酵させるので(マセラシオン)、
でき上がった液体(ワイン)を樽から出したあと、色の付いた残留物が木樽の内壁に頑固に付着してしまいます。
そのようになった大量の小樽をキレイに洗浄するのは、手間も時間もコストもかかってタイヘンだからです。

ですから赤ワインの発酵はステンレスタンクや巨大な樽など大型の容器の中で行なうことが多いです。
そして発酵後、容器から抜き取った赤い液体(つまりワイン)だけを小樽に移し、樽熟成させるのです。
(軽めでフルーティなタイプの比較的安価な赤ワインは、この樽熟成を行わない場合もあります。)

生産者によっては、赤ワインの工程の "一部だけ" 樽発酵を行なうことがあります。
ステンレスタンクで発酵を開始させ、赤くなってきた液体(ワインになりかけ)だけを抜き出し、それを木樽に移してアルコール発酵を完了させるという方法です。
もしも「樽発酵」と書かれている赤ワインを見かけたら、おそらくはこうした方法で途中から樽発酵させたものでしょう。

ところで白ワインの場合は、「樽発酵」か「樽熟成」かは、わりと重要なポイントです。
というのは、樽発酵&樽熟成を行なったワインは、樽熟成だけを行なったワインに比べると、それほど樽の風味がしないのです。

上述のとおり樽発酵したワインは樽熟成もセットです。
樽発酵+樽熟成のシャルドネのほうが、樽熟成のみのシャルドネよりも、木樽との接触時間が長い分だけもっと樽香がしそうなものですが、実際には逆なのです。

その理由は主に次の2つです。

①樽発酵の場合、アルコール発酵中に、酵母が木樽由来の風味成分も少々分解してしまうから。
②発酵終了後に酵母の死骸(オリ)が木樽の内壁を覆い、木樽風味成分がワインに移るのをブロックしてしまうから。

こうしたわけで、発酵から木樽を使ったワインよりも熟成だけ木樽で行なったワインのほうが樽香が強くなるのです。

ワイン造りのテクニック、ほんとうに奥が深いですね!

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美味しいワインを試飲しながら気軽にワインの基本が学べる、「お気楽ワインセミナー」"ワイン入門編"を開催しました!

バイザグラスのソムリエ松沢裕之です。

昨日6月11日(日)は、ぼくたちバイザグラスの「お気楽ワインセミナー」"ワイン入門編" を開催しました。

お気楽ワインセミナーは、美味しいワインを試飲しながら少人数で気軽にワインの基本が学べる、とてもアットホームな雰囲気のワイン講座です。

今回の会場は、JR新宿駅南口から徒歩5分ほどのところにある建物の4階。
普段はダンスやヨガなどのエクササイズに使用されているフロアのようです。

ソムリエール犬飼雅恵がシャンパーニュの抜栓に入ります。

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そして、いつものように、まずはシャンパーニュで乾杯~!

きれいなゴールド色の液体にキメ細かな泡が上品に立ち上がります。
シャンパーニュ独特の、パンの皮のような香ばしい匂いが嗅ぎ取れます。

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シャンパーニュのあとは白ワインを2種類、赤ワイン2種類をテイスティングしました。

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ぼくたちの「ワイン入門セミナー」では、テイスティングの基本動作を一から行います。
真剣な顔つきでワインの香りをとります。

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ワイン入門編では毎回、ソムリエナイフを使ったワイン抜栓のやり方をゲストの方に伝授しています。
今回は、ゲストの方のワイン抜栓の時間をいつもよりも長めにとりました。

ソムリエール犬飼が、まず抜栓全体の流れを説明します。

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そして「我こそは!」というゲストの方に、いちばん前まで出てきていただき、実際にやっていただきます。

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ワインの抜栓は、
①キャップシールを取り外す
②コルクを抜き取る
という大きく2つの作業があります。

はじめのうちは、①でソムリエナイフを使ってキャップシールを切るのが、いちばん難しい部分かも知れませんね。

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そして、見事に抜栓できました~! 拍手っ


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和気あいあいとしたムードの中、あっというまに2時間が経ってしまいます。

お気楽ワインセミナー「ワイン入門」編は、毎月1回のペースで開催しています。
次回は7月9日(日)です。

ワインにご興味のある方、気軽にワインの基礎を学んでみたい方、
ぼくたちバイザグラスの「お気楽ワインセミナー」にぜひ一度参加してみてくださいね!

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木樽由来の樽香は多くのワインファンを魅了しますが、樽香があるからといって良いワインというわけではありません

バイザグラスのソムリエ松沢裕之です。

ワイン造りには

1. ブドウ栽培 Viticulture
2. ワイン醸造 Vinification


という2つのステップがあり、それぞれにテクニックや専門用語があります。
前回まで上記のうち Viti すなわち「ブドウ栽培」の専門用語をご紹介してきました。

今回からは2. の Vini すなわち「ワイン醸造」に関するテクニック、用語についてご紹介していきます。

この「ワイン醸造」は、次の2つの工程に分けることができます。

(1) 発酵
 ・・・ブドウ果汁がアルコール発酵によってワインに変わる工程です。

(2) 熟成
 ・・・発酵してできあがったワインを別のタンクか樽に移し替えて、しばらく寝かせます。こうすることで、ワインの中に含まれる不純物(オリ)が下のほうに沈殿していき、ワインが落ち着いてきます。ワインのバランスや風味が向上します。

造ろうとするワインのタイプによって、工程全体の期間は3ヶ月から5年にも及んだりします。
それこそ生産者が資金繰りに窮することがなければ、もっと長い期間をかけることもあります。

生産者がワイン造りをする方法には、レストランのシェフがキッチンで調理をするときほど多くの選択肢があるわけではありませんが、それでも様々なテクニックがあります。

アルコール発酵や熟成に関してもいろいろな用語を聞くことがあると思いますが、なかでも「樽」に関する話は、おそらく最もよく耳にするものではないでしょうか。

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 ▲チリなど新世界ワインのシャルドネには樽香が顕著なものが多い

◆木樽の使用 Oak Barrels


生産者は発酵や熟成の工程で木樽を使用することがあります。
木樽はワインに木の樽の風味、いわゆる「樽香」をつけます。

この樽の香りが、多くのワイン飲みたちを魅了します。
木樽は、ワインの口当たりや色にも影響を与えます。

木樽は高価です。
いちばん高級とされるフレンチオーク(フランス産の木樽)だと、容量200リットル強の1樽あたり10万円以上します。
逆に言えば、この高価なコストこそ、生産者が自分のワインに木樽を使っていることを強調したがる理由でもあります。

とはいえ、すべての木樽が同じわけではありません。
木材の原産地、木樽の内壁の燻し具合、その木樽が新樽なのか、何回か使ったあとの旧樽なのかによっても、樽の効果は異なります。

木樽のサイズによっても、ワインへの樽香の付着具合は異なってきます。
小さいサイズの木樽のほうが大きいサイズの木樽よりも、ワインに樽香がしっかりつきます

その理由は、同じ量のワイン液体であれば、一つの大樽にドカンと全部入れた場合と、たくさんの小樽に分けて入れた場合とでは、後者のほうが、ワイン液体と木樽内壁とが接する表面積合計が大きくなるからです。

世の中には、樽香がするだけでそのワインは良いワインだと決めつける人もいますが、そう単純なものではありません。

たとえばソーヴィニヨン・ブランやリースリングのように、果実味やフレッシュさを楽しむタイプのワインであれば、樽香はかえって余計なものとなります。

ですから、必ずしも樽を使っているから良いというわけではありません。
そのワインのスタイルに合った造り方が大事だということですね。

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ブドウの自然農法いろいろ ~ 有機栽培のビオのほか、リュット・レゾネは現実的な減農薬栽培、ビオディナミは天体運行に合わせたややカルト的農法です

バイザグラスのソムリエ松沢裕之です。

ワイン造りのためのブドウ栽培では、さまざまな技術、テクニックが用いられています。
そうした取り組みを表す専門用語として、ここまでミクロクリマキャノピー・マネジメント成熟度低収量・密植などをご紹介しました。

今回は有機栽培をはじめとする自然農法についてのお話です。

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 ▲フランス・ロワール地方のニコラ・ジョリが造る
サヴニエール・クレ・ド・セランはビオ・ディナミ


◆有機栽培 Organic Viticulture

オーガニック、いわゆる有機栽培を実践するブドウ農家は増え続けています。

有機栽培は、化学肥料や除草剤、殺虫剤などの農薬をを使わずに行なう農法です。
各国で公的機関が監査や認証を行なっています。

有機栽培を行う理由は、化学物質から土地の健康を守るためですが、
その根底には、
「有機栽培されたブドウは、農薬等を使用する現代的な農法で育てられたブドウよりも優れており、より良いワインができるはずだ」
というブドウ農家の信念があります。

化学肥料や農薬等の使用は短期的にはブドウの収量や農作業の効率を高めますが、
長い目で見ると土壌の活力を弱め、ひいてはワインの品質の低下につながるという考え方です。

フランスをはじめヨーロッパ諸国では有機栽培のことを一般に BIO ビオと呼び、
そのようなワインのことをビオ・ワインと呼んでいます。


◆リュット・レゾネ Lutte Raisonée

リュット・レゾネはいわゆる「減農薬栽培」のことです。

化学肥料や農薬の不使用を有機栽培ほど厳格にするのではなく、
それらの使用を必要最低限に保つやり方です。

環境保全型のブドウ栽培ともいわれています。

Lutte は努力・闘いといった意味で、Raisonée は合理的な、という意味です。
直訳すると「合理的な努力」といった意味合いになります。

高品質なワインを造る生産者の多くがこのような栽培法を採り入れるようになっており、現在フランスでは最も一般的なやり方です。


◆ビオディナミ Biodynamie (英:バイオダイナミクス Biodynamics)

有機栽培の考え方を適度に採り入れたリュット・レゾネとは異なり、
有機栽培のやり方をさらに進めたビオディナミという農法もあります。

これは、20世紀初期にオーストリアのルドルフ・シュタイナーという思想家が提唱した農法です。

化学肥料・農薬等の不使用など有機栽培の条件を守ることに加え、
月や天体運行などの動きに合わせて特定のタイミングで農作業を行なうなど、いささか呪術的な側面をもった農法です。

その科学的根拠や有効性には疑問の声もありますが、
ビオディナミを実践したワインは ある種の熱狂的で崇拝的な人気を博しています。

フランス・ブルゴーニュ地方のドメーヌ・ルロワ、ロワール地方のニコラ・ジョリといった生産者がビオディナミを推進しています。

ワイン用ブドウの自然農法にも、いろいろなやり方があるのですね!

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ワインのブドウは成熟度の高さが重要ですが早熟ならいいというものでもなく、またブドウはわんさか実がなるよりも収穫量を抑えたほうが美味しいワインができます

バイザグラスのソムリエ松沢裕之です。

前回に引き続き、ワインボトルの裏ラベルやワイントークの中でよく出くわす、
「ブドウ栽培(Viti)」についての用語をご紹介します。 


◆成熟度 Ripeness

ブドウが十分に熟した段階で収穫することは、ワイン生産において非常に重要なポイントの一つです。

ブドウが未熟な段階では、酸度が高く糖度が低い状態となっています。
これはあらゆる果物についていえることで、かじると酸っぱい味がするはずです。

ブドウの成熟が進むにつれて、甘味が増し、酸味が低下していきます。
そして味わいにコクが出て、複雑性も増していきます。

果皮は薄くなっていき、種や梗さえも熟していきます。
とくに黒ブドウでは、果皮や種や梗に含まれる渋味成分もこなれていきます。

そのため、ブドウの成熟度がどのくらいの段階であったかというのは、ワインのスタイルを決定付ける重要な要素となります。

とはいえ成熟度というのも、いささか主観的な問題です。

ブルゴーニュ地方のような冷涼な産地では、ブドウの成熟度が十分に高まるという状況は、毎年のようには起こりません。
そのため、そのようなタイプのワインの標準からみて "例年よりは" 熟度の高いヴィンテージなら、「リッチでボディのあるワイン」といわれたりします。

カリフォルニアやオーストラリアのような温暖な気候の地域では、ブドウの成熟度は
ほぼ自動的に高まります。
そういった環境では、ブドウがあまりに早く熟しすぎないようにすることのほうが重要だったりします。

ブドウが早熟すぎると、糖度だけ高くても生理学的には未熟なブドウとなり、
ワインにしたときアルコール度数ばかり高くて肝心の風味が未発達なものになってしまうからです。
"カラダは早熟でも人格が未熟なティーンエイジャー" みたいな感じですね。

そういうわけで、ブドウの完全な成熟度という概念については、とくに決まった定義は存在しないのが実情です。

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 ▲ブルゴーニュ地方シャンボール・ミュジニィ村のドメーヌ・ジョルジュ・ルーミエは「低収量」かつ自然なワイン造りを行なう。


◆低収量 Low Yields

一般に、1本のブドウの木がブドウの実をたくさん持てば持つほど、そのブドウ果汁の味わいの凝縮度は低下し、ワインにしたときの品質(したがって値段も)下がっていきます。

また単位面積当たりの収穫量が多すぎると、ブドウの風味は薄まっていきます

そこで、高品質のワインを造ろうとする場合は、意図的にブドウの収穫量を低減させることによって、風味の凝縮したブドウを育てるようにします。

そのための方法は大きく2つあります。

ひとつは、冬の間にブドウの木を剪定して、残す枝の数を減らすことです。
もうひとつは、ブドウの成熟期に未熟な房を間引くことです(グリーン・ハーベストと呼ぶ)。

これと同様の意図から、とくにヨーロッパを中心に「密植」というテクニックが使われています。
ブドウの木と木の間隔を狭めて、1本あたりにつく房数を減らすのです。

密植にすると、単位面積あたりの土壌の水分や栄養分をより多くの木々で奪い合うため、木1本あたりに割り当てられる養分量が減り、1本の木が付けられる房の数が減るというわけです。

たとえば単位面積内おいて、合計12房のブドウの実を、2本の木が抱えるよりも3本の木が抱えるほうが、ワインは美味しくなります。

100m四方(1ヘクタール)にだいたい1m間隔でブドウの木を植えると1万本になります。
1ヘクタールあたり1万本以上であれば密植と呼んでよいでしょう。

密植はフランスのボルドー地方やブルゴーニュ地方を中心にヨーロッパで見られますが、
逆にアメリカやオーストラリアでは疎植(密植の逆)が多いです。

ブドウの味わいの凝縮感を高めるために、様々な工夫がなされているのですね。

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ミクロ・クリマは局所的な気象条件、キャノピー・マネジメントはブドウ畑の栽培管理 ~ こうした専門用語はマーケティングのために使われていることも多いですね

バイザグラスのソムリエ松沢裕之です。

前回お話したように、ワイン造りは Viti Vini つまり


1. ブドウ栽培 Viticulture

2.
ワイン醸造 Vinification

という2つのステップに分けられ、それぞれにテクニックや専門用語があります。

今回は「ブドウ栽培(Viti)」に関する専門用語を2つご紹介します。

ワイン用のブドウを育てるのは、じつに複雑なプロセスです。
ブドウ栽培農家はみな、自分の畑の土壌、気候、そしてブドウ品種に本当に合った栽培法を見出すため、常に改善を重ねて、様々な専門技術を採り入れています。

しかしブドウ栽培に関する専門用語の多くは、技術そのものを語るためというよりも、
実際にはマーケティング上の目的で、そのワインの品質が優れているということを語るために使われることが多いです。
ワインボトルの裏ラベルなどに書かれている、ワインの説明文の中でよく見かけます。

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 ▲ブドウ栽培の専門用語は、こういうところに書かれた文章の中で見かけることが多い


◆ミクロ・クリマ Microclimate

どのワイン産地にも、
その地方の標準と考えられている気象条件があります。

たとえばボルドー地方、ブルゴーニュ地方といった地方単位でみれば、

それぞれの地方内では気温、湿度、日照量、降水量、風の向きといった気象条件は
おおむね共通しています。

しかし細かく見ていくと、そうした産地の中にも、個々のブドウ畑の立地条件(たとえば、
ある丘の南向きの斜面に立地するなど)によって、現実には気象条件に多少の違いが見られます。

こうした局所的な気象条件のことを「ミクロ・クリマ」といいます。


◆キャノピー・マネジメント
Canopy Management

キャノピーとはブドウ樹の地表から上の部分、つまりブドウ樹の根っこ以外の部分を指します。

ほったらかしにしていると、ブドウ樹は地表や他の樹の上など、そこらじゅうに伸びていきます。

植物ですから当たり前なのですが、産業としてのブドウ栽培においては、ブドウの枝や芽があちこちに伸びていかないよう、格子やワイヤーなどの器具を使って樹勢を一定のパターンに保つようにします。

具体的には、ブドウの葉を刈り取ったり(除葉)、果実を最適な位置と量に保つため、樹の仕立て方や樹と樹の間隔の調整などを行います。

このような
ブドウ畑における栽培管理のことを「キャノピー・マネジメント」といいます。

こんなふうにブドウの樹勢をコントロールする目的は、
ブドウの房を整然と並ぶようにすることによって、

十分な日光を浴びさせブドウの成熟度を高めたり収穫量を増やしたりするためです。
また
果実の収穫作業を効率的にできるようにすることも目的のひとつです。

キャノピー・マネジメントも、ワイン造りにあたってブドウの成長・成熟に対して多大なケアをしたことをアピールするために、生産者がよく使う言葉です。


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「ブドウ栽培」「ワイン醸造」それぞれに様々なテクニックがありますが、生産者はブドウ品種や造ろうとするワインのタイプに応じて使い分けています

バイザグラスのソムリエ松沢裕之です。

ワインの生産者は数々のテクニックを駆使してワインを造っています。

生産者は、自分が持っているブドウの品種や造っているワインのタイプに応じて、
いろいろなテクニックを使い分けます。

たとえば1本700~800円くらいのワインを大量に造っている生産者は、ワインを新樽で熟成させたりしないでしょう。
新樽を使うコストはワイン1本当り400円~500円にもなるからです。

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 ▲
チリの造り手コノスルはスーパー等で800円程度で買えるワインも多く造っているが、写真のコノスル「オシオ」は新樽を100%使用して熟成させた高級ワイン


個々のワイン造りのテクニックに、本質的な良し悪しはありません。
どんなテクニックも、ブドウの品種や造ろうとするワインのタイプによって、良くもなれば悪くもなります。

造り手が思い描いている味わいの方向性、
ワインの価格帯、ターゲットとしている消費者のタイプなどによって、適切なテクニックが異なるのです。

ワインを飲む人のタイプ、ワインを飲む場や状況によって、選ばれるワインは違ってきます。
たとえば、

買ってきてすぐに楽しめるように造られているワインもあれば、何年間か(場合によっては長期間)熟成させると美味しくなるように造られているワインもあります。

一般的な消費者にとって美味しく感じられるワインもあれば、ワインの経験値のある人が喜ぶような味わいのワインもあります。

飲む人にとって、どれだけ美味しく楽しめるワインになっているか。
それが、ワイン造りに用いられたテクニックの正しさを測る究極の評価基準だといえます。

ですから、ターゲットとする消費者に喜ばれるワインにならないのであれば、いかなるテクニックを使おうと無意味ということになります。

ワイン造りのテクニックは、ワインの味わいに様々な角度から影響を与えますが、
ひとくちに「ワイン造り」といっても、実際には大きく2つのステップに分けられます。

1. ブドウ栽培 Viticulture
2. ワイン醸造 Vinification

海外のワインスクールでは、この2ステップの頭文字をとって、「ワイン造り」のことを Viti-Viniヴィティ・ヴィニ)と読ぶこともあるそうです。

この2つのステップを、ひとつの生産者が両方とも行なう場合が、エステートワインということになります。
いわゆる「ドメーヌもの」ですね。

【関連記事】
ドメーヌは自ら所有する畑でブドウ栽培からワイン醸造、瓶詰めまで行う生産者 ~ 個性的なワインが多いですが、その背景には1930年代以降の「ドメーヌ元詰め運動」がありました

この2つのステップが分離され、別々の造り手が行なう場合がネゴシアンワインです。
つまり、大き目のワイナリー(ネゴシアン)が個人農家からブドウを買ってワインを造るパターンです。

この場合、ブドウを売った農家はワインを造りません。
ただブドウを育て、いちばん高い値をつけてくれたネゴシアンに売るのです。

低価格帯のワインになると、ラベルに名前の出ている造り手(ネゴシアン)は、ブドウすら買っていないこともあります。
つまりバルクワインの生産者からワインを買い、ブレンドし、瓶詰めして、自分たちのワインとして売るのです。

話を戻すと、Viti(ブドウ栽培)と Vini(ワイン醸造)のそれぞれに、いろいろなテクニックがあります。

次回から、具体的なワイン造りのテクニックを Viti(ブドウ栽培)に関するものと Vini(ワイン醸造)に関するものに分けて、ご紹介していこうと思います。

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ブドウ栽培やワイン造りの技術(テクニック)については難解な用語も多いですが、最低限の知識があれば、ワイン選びもますます楽しくなるはずです

バイザグラスのソムリエ松沢裕之です。

ワインは飲んで楽しければそれでよくて、ブドウの育て方とかワインの造り方なんてどうだっていい、という考え方もあるかもしれません。

でも、ブドウ栽培やワイン醸造のテクニックなどについて最低限の知識や重要な用語を知っていると、ワインがますます楽しくなるはずです。

友だちとワインを楽しんでいるときも、ふとした機会にそうしたことを説明できたりすると、きっと自慢できますよ(笑)

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 ▲ブルゴーニュのドメーヌ・ポンソはいち早く有機農法を導入、1988年から酸化防止剤の二酸化硫黄も不使用、写真の「クロ・ド・ラ・ロッシュ」はまさに "作品" と呼べるワイン


ワインを選んだり買ったりするときに最もフラストレーションがたまるのは、よくわからない技術的な用語を耳にしたときではないでしょうか。

欲しいのはリクツじゃなくて、今夜のつまみに合わせる爽やかでフルーティーな白ワインだったりするわけですからね。

でも、自分のイメージするワインを的確に探し出すためには、
当ブログでこれまで述べてきたようなブドウの種類や特徴、香りや味わいを表すワインコトバ、ラベルの読み方などの知識を活用できたほうが、スムーズにできるはずです。

さらに、ブドウ栽培やワインの造り方についても多少は知識があったほうが、今後のワインライフも、より充実したものになるでしょう。

世の中のワインには2通りの製品があります。

①「飲み物」のひとつとして消費されるワイン

ワインはたんなる飲み物のひとつだと考えれば、美味しければそれで良い、ということになります。

②英知と技術を込めた「作品」としてのワイン

これは、人々を魅了し、好奇心をそそるような一種のアート作品とも呼べるワインです。


ワインを造ったり販売したりする人はたいてい、自分たちのワインは②のカテゴリーだ、と消費者に思ってもらいたいのです。
なぜなら そのようなハイクラスなワインを取り扱っていることは、やはり名誉なことだからです。

そうした生産者や販売者が、ともすれば複雑な技術的用語を使ってワインを語ろうとするのは、
そのワインが何か特別なもので単なる飲み物とは違うのだと、消費者に思ってほしいからでしょう。

そんな、世に蔓延する難解な技術的知識はいろいろありますが、ムダにもったいぶったような大げさなものが多いように思います。

いっぽう、自分の思い描くワインにたどり着くうえでも、やはり知っていたほうがよい用語もあります。

どんな知識や用語が重要なのか、これから何回かに分けて書いていきたいと思います。

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Vieilles Vignesは樹が古い、Classicoは畑が古い、Riservaはワインが古い、Superioreはアルコールが高い!そして畑名の書かれたワインは個性ある良いワインが多いです

バイザグラスのソムリエ松沢裕之です。

今回はラベル表示のお話の締めくくりとして、畑名の表示、"Vieilles Vignes"、"Superiour"、"Classico" という文言の表記についてまとめておきます。


◆畑名の表示◆

中級以上のワインの中には、原料ブドウが育てられた特定の畑名がラベルに表記されているものがあります。

ワイナリーによっては、同じ村名で、同じブドウ品種で、畑の名前だけが異なるワインを数種類つくることもあります。とくにフランスのブルゴーニュ地方でそのようなワインが見られます。

以前にも述べたように、個々のテロワールはいわば唯一無二の自然的条件を持っていますので、畑名の書かれたワインは、畑ごとの独特の個性を持っているというわけです。

【関連記事】
テロワールとは、その畑だけが持つ唯一無二の自然的諸条件の組み合わせ


ブルゴーニュ地方では畑にも等級があり、最上位は特級畑(グラン・クリュ) Grand Cru、次が1級畑(プルミエ・クリュ) Premier Cru (1er Cru)です。

等級のついていない畑であっても、
わざわざ畑の名前が書いてあるワインは、その畑の個性が感じられる、「良いワイン」である可能性が高いです。

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 ▲ブルゴーニュのヴォーヌ・ロマネ村のワイン ~ 1er Cru - Les Beaumonts と畑名が記載

イタリアでもとくに北部はブルゴーニュ地方に似て、単一畑のワインを造る傾向があります。
わざわざ畑名を書いていないこともありますが、書いてある場合は Vigna ○○ といった表記がラベルにあります。

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 ▲イタリアのバローロ ~ VIGNA COLONNELLO と畑名が記載


◆Vieilles Vignes◆

イタリアワインの Riserva やスペインワインの Reserva は「ワインが古い(= 熟成が長い)」という意味でしたが、
フランスワインでよく見かける Vieilles Vignesヴィエイユ・ヴィーニュと読み、
古いブドウ樹」という意味です。
カリフォルニアワインやオーストラリアワインにも "Old Vines" と書かれていることがあり、意味は同じです。

古いブドウ樹は若い樹に比べて収穫量が激減します。
つまり果実が非常に少ない量しかできません。

樹が根や葉を通じて吸収する養分を果実たちが分け合うわけですが、
若い樹にできた果実よりも古い樹の果実のほうが養分を取り合うライバルが少ないので、
果実一粒あたりの養分量が相対的に多くなる(濃くなる)ことから、凝縮感の高い果汁が得られます。

また古いブドウ樹は若い樹に比べて地中深くまで根を張っています。
根が深いほど安定的な水分量を樹に供給できますし、
深い分だけ、より豊富で複雑な要素を持った養分を果実に供給することもできます。

こうしたことから、古い樹のブドウから造られるワインは高品質だと考えられているのです。

問題は、ヴィエイユ・ヴィーニュという言葉には規定がないため、誰でも「この樹は古い」と言えてしまうことです。
一般にブドウの樹の寿命は60年~100年といわれますが、樹齢が40年を越えたあたりからヴィエイユ・ヴィーニュと呼んでいることが多いようです。

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 ▲ラベルに "VIEILLES VIGNES" と書かれているワイン


SuperioreSupérieures◆

Superiore スペリオーレはイタリア語Supérieures シュペリウールはフランス語です。
いずれもAOPワイン(DOPワイン)の名前の一部としてラベルで見かける言葉です。

【関連記事】
AOP,DOP,AOC,DOC,DOCG,DO,DOCa ・・・原産地呼称制度も国によって呼び名が違うなんて、ヨーロッパって大変ですね。。


伝統的には、同銘柄の通常のワインよりも
アルコール度数が高いことを意味していました。
たとえば Soave ソアーヴェよりも Soave Superiore ソアーヴェ・スペリオーレのほうがアルコール度数が高いということになります。

しかし現在では、必ずしもアルコール度数が高いからというよりも、畑の場所やワインの造り方等々による区分として付けられているのが実情です。


◆Classico◆

Classico クラシコはイタリアワインでよく見かける言葉です。
同じ地域の中でも畑が古い(元祖の畑である)ことを示しています。

Chianti Classico キァンティ・クラシコが有名ですね。

これも、もともとキァンティという地域は限られた範囲だけだったのに、時とともにだんだんキァンティを名乗れる地域が周辺に広がってしまいました。
そこで、もともとからキァンティだったところをクラシコと呼ぶことになったのです。

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ドメーヌは自ら所有する畑でブドウ栽培からワイン醸造、瓶詰めまで行う生産者 ~ 個性的なワインが多いですが、その背景には1930年代以降の「ドメーヌ元詰め運動」がありました

バイザグラスのソムリエ松沢裕之です。

フランスワインのラベルを見ると、
mis en bouteille au domaine
とか
mis en bouteille au château
などの文言を見かけることがあります。

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 ▲
mis en bouteille au domaine という表示


これは直訳すると、「ドメーヌにて瓶詰めされた」「シャトーにて瓶詰めされた」という意味です。

ドメーヌ domaine もシャトー château も、

自ら所有する畑でブドウ栽培からワイン醸造、瓶詰めまで一貫して行う生産者

のことです。

主にブルゴーニュ地方ではドメーヌボルドー地方ではシャトーと呼ぶことが多いです。
(ドメーヌはもともと「領地」、シャトーはもともと「お城」の意味です。)

ですから、冒頭の文言の実質的な意味は、

「ブドウ畑の所有者自身によってブドウ栽培から醸造、瓶詰めまで一貫して行われたワイン」

ということになります。

書き方には
mis en bouteille à la propriété
というバリエーションもあり、これは「畑の所有者によって瓶詰めされた」という意味で、実質的に言っていることは冒頭の2つと同じです。

こうした「生産者(= ブドウ畑所有者)元詰めワイン」のことを英語では estate-bottled wine、通称「エステートワイン」と呼びます。
日本では、ワイン好きの間では俗にドメーヌものと呼んだりもします。

アメリカのワインにも 、ラベルに Estate Bottled という表記を目にすることがあります(Estate はワイン農園を指す上品な言い方です)。

Estate Bottled は上述のとおり「生産者(= ブドウ畑所有者)元詰めワイン」すなわち「ドメーヌもの」と同じ意味で、生産者がブドウを育て、ワインを造り、瓶詰めしたということを意味しています。


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 ▲Estate Bottled という表示


「エステートワイン」とか「ドメーヌもの」という言葉があるからには、そうではないタイプのワインもあるわけです。

それは、「ネゴシアンワイン」とか「ネゴシアンもの」と呼ばれるタイプのワインです。

ネゴシアン négociantとは、他者からブドウを購入してワインを造ったり、ワイン自体も購入して瓶詰めしたりする業者のことです(フランス語の元々の意味は「卸売商」)。

ワイン造りのプロセスを

(A)ブドウ栽培 → (B)ワイン醸造 → (C)瓶詰め

に分けると、

(A)(B)(C)すべてを一貫して行うのがドメーヌやシャトーであり、
(B)(C)のみを行うのがネゴシアンです。

ブルゴーニュのドメーヌは小規模な生産者がほとんどですが、ネゴシアンには比較的大規模な会社が多いです。

歴史的に見れば、1930年くらいまではネゴシアンたちが資金力を背景に力を握っていて、
ドメーヌからブドウを購入してワインを造って瓶詰めして、ネゴシアンの名前で販売するのが主流でした。

つまりワインはネゴシアンものがほとんどだったのです。

ドメーヌは零細農家が多く、ブドウを栽培してもワインにする設備を持っていなかったり、持っていたとしてもワインを造って販売してようやく入金されるまでの間の資金繰りに困ったりしていました。

そのため、せっかく育てたブドウも売りに出さざるを得ず、ネゴシアンに安く買い叩かれてしまったり、優れた畑を持っていても、他の凡庸な畑のブドウととブレンドされてしまうなど、自分たちの思いやこだわりをワインに反映できない時代が長く続いていました。

ドメーヌはいわばネゴシアンの下請け状態だったのです。

1930年代に入ると、ブルゴーニュ地方ではネゴシアンの支配から独立しようとする零細農家の動きが見られ始めました。
優れた畑を持つ農家がネゴシアンにブドウやワインを販売することをやめ、自分のワイナリーを立ち上げるようになったのです。

アルマン・ルソー、マルキ・ダンジェルヴィル、ジョルジュ・ルーミエなどの優秀な農家たちが、自らワインを造り、瓶詰めして、独自のラベルを貼って販売するようになりました。

こうした一連の動きを「ドメーヌ元詰め運動」といいます。
このドメーヌ元詰め運動は成功し、いまでは村や畑の名前だけでなく、生産者の名前もワインを評価する際の重要な要素となりました。

「ブドウが良くなければ良いワインは造れない」という考え方に基づけば、エステートワインというのは大切なコンセプトです。
ワインを造る者の立場に立てば、良いワインを造るために、その原料となるブドウ作りからコントロールしたいと考えるのは当然ですからね。

たしかに「ドメーヌもの」の方が個性的なワインが多く、いわゆる最高級品のワインはほとんどがこのタイプです。

ただし、素晴らしいワインは必ず「ドメーヌもの」であるべきだ、とまでは言い切れません。

ドメーヌ生産者であっても技術や管理のレベルが低く、質のよくないワインを造るところはありますし、
ネゴシアンにも優秀な技術を持ち、契約生産者をしっかりと管理・指導して素晴らしいワインを造るところもあります。
たとえばブルゴーニュ地方でいえば、ルイ・ジャド Louis Jadot やオリヴィエ・ルフレーヴ Olivier Leflaive などは素晴らしいネゴシアンです。

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 ▲オリヴィエ・ルフレーヴの「ピュリニー・モンラッシェ1級畑ピュセル」


結局ドメーヌものであれ、ネゴシアンものであれ、自分の好みに合った良い生産者のワインに出合うことが大事なのでしょうね。
まさにワインライフはライフワークだといえるでしょう。

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Reserve!Riserva!Reserva!・・・ってワインのラベルでよく見かけるけど結局どういう意味?~ 国によって厳格な意味があったり、ほとんど意味がなかったりします

バイザグラスのソムリエ松沢裕之です。

ワインのラベルには、各国の法律で定められた義務的な記載事項のほかにも、いろいろな文言が書かれています。

前回はヴィンテージについて説明しました。
今回はワインのラベルで見かけることの多い "Reserve"(Riserva, Reserva)という文言について書いてみます。


Reserve!Riserva!Reserva!

Reserve というフレーズは、ワインだけでなくお酒一般によく見かける文言ですね。

このフレーズは消費者に対して、このワインは何となく特別なものだという印象を与えますが、
消費者に好印象を与えることはあっても、国によっては法的にはまったく意味のない言葉だったりします(たとえばアメリカ合衆国のワイン)。

とはいえ、この言葉はマーケティング的には強い効果があります。
なぜなら国によっては、このフレーズは法的にも特別な意味を持ち、ある種の名声や卓越性を示すからです。

イタリアやスペインでは、Riserva/Reserva という言葉は、そのワインが販売される前に、通常のものよりも長い熟成期間を経ていることを示しています。

「より長い熟成」は、そのワインが通常よりも良いワインだからこそ、より長い熟成に値する、
といったような意味合いを言外に含んでいるわけです。

barolo_riserva_vignaelena
 ▲バローロ RISERVA とラベルに書かれている


イタリアでは、Riserva リゼルヴァは「ワインが古い」すなわち熟成期間が長いことを示しています。

たとえば単なる Barolo よりも Barolo Riserva のほうが樽の中での熟成期間が長いことを示しています。
Chinati Classico キァンティ・クラシコも、Riserva がつくと2年以上の熟成が義務付けられます。

スペインでは Reserva について、国の定めるグレードまで存在します。
いわゆる高級赤ワインについては、

レセルバ Reservaは最低3年間の熟成(そのうち1年間は樽熟成)
グラン・レセルバ Gran Reserva は最低5年間の熟成(そのうち1年半は樽熟成.)

が義務付けられているのです。

フランスでは、
Réserve という言葉の使用について、とくに法的な規制はありません。
しかし
一般的にこの言葉は品質的に通常のものよりも優れているワインに対して使用する、というような不文律というか一貫性のようなものがあるようです。

いっぽうアメリカでは、Reserve という言葉はもともとフランスと同じように使われていましたが、
現在ではぞんざいに扱われ、猫も杓子も Reserve と記載するようになったため、ほとんど意味を成さなくなってしまいました。。

Reserve,Riserva,Reserva ・・・わりとよく目にするため、つい見逃してしまいそうなラベルの文言ですが、
掘り下げてみると、とくにヨーロッパのワインでは深い意味があったのですね。

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