バイザグラスのソムリエ松沢裕之です。

世界中のワインの目利きたちは、ドイツのデザートワインはこの世の甘口ワインの中でも最も優れた部類に入ると認識しています。

そんなドイツの素晴らしきデザートワインたちは、その甘みをボトリティス・シネリア Botrytis Cinerea という名の不思議な菌の働きに負っているところが大きいのです。
ボトリティス・シネリアは一般には貴腐菌と呼ばれています。

貴腐菌は晩秋の時期、湿度と日照の一定のコンビネーションが存在する場合に、成熟したブドウの実に付着します。
この菌がブドウの実を脱水させ、その糖分と風味を凝縮させます。
こうして貴腐菌の付着したブドウを貴腐ブドウといいます。

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 ▲貴腐菌の付着したブドウの実

貴腐ブドウからできたワインは甘くなり、驚くほどコクが出て、言葉で表現することができないほど複雑な風味になります。
高いものになると1本1万円は余裕で超えてしまうでしょう。

トロッケンベーレンアウスレーゼとベーレンアウスレーゼのワインは通常、貴腐ブドウだけから造られます。
これらは口当たりがふくよかで、非常に甘味があります。

アウスレーゼでも、部分的に貴腐ブドウが使用されることがあります。
そのような場合にはやはり、かなり甘くなる傾向がありますが、ベーレンアウスレーゼ以上のワインほどの甘さにはなりません。

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ドイツワインに魅力的な甘みを与えるもう一つのやり方として、初冬の時期に、木に成っているブドウを凍らせるという方法があります。

凍ったブドウを収穫して圧搾すると、果実中の水分のほとんどが氷として分離されます。
すると、残った果汁は非常に糖分が凝縮したものとなり、その果汁を発酵させてワインを造ると、魅惑的な甘味を伴うワインとなります。
これがアイスヴァイン Eiswein で、文字通り「氷結ワイン」の意味です。

同じ甘口でもアイスヴァインは、トロッケンベーレンアウスレーゼやアウスレーゼのような貴腐ワインとはタイプが異なります。
貴腐菌の働きによって生じるハチミツにも似たある種の風味は、アイスヴァインにはあまり感じられません。

とはいえ貴腐ワインもアイスヴァインも共に、レイトハーベストワインすなわち遅摘みワインと呼ばれます。
これはドイツだけでなく世界的にもそのように呼ばれています。

貴腐ワインやアイスヴァインが共通して持つ独特な性格は、通常の収穫時期よりも遅くまでブドウを収穫せず木に残しておいたときにだけ、生まれるものだからです。

すぐには収穫しないでおき、通常よりももっとブドウを熟させてから収穫するから、その分ブドウの糖度も高まっているわけですね。

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