バイザグラスのソムリエ松沢裕之です。
1967年にキアンティがDOC認定されたのですが、それを機に栽培面積が急増し、数年のうちにキアンティの生産量が4倍になってしまいました。
しかし1973年のオイルショックで世界的に経済が停滞し、ワインの消費も落ち込んでしまいました。
キアンティの売上げにも陰りが見えてきたので、志ある生産者はワイン造りをもっと量から質へとシフトしていこうとしました。
ところが前々回述べたように、1967年時点のワイン法ではキアンティをサンジョヴェーゼ100%で造ることは認められておらず、品質面で劣る地元のブドウ品種や白ブドウをブレンドすることが義務付けられていました。
南イタリア産のブドウ果汁を15%まで加えることさえ認められており、品質よりも量産を目指して定められたイタリアのワイン法が、キアンティの品質向上を阻んでいたのです。
【関連記事】キアンティ・クラシコこそが本来のキアンティだった ~ キアンティを名乗れる地域が拡大してしまったため、元々のキアンティ地区がクラシコを名乗るようになったのです
そのような状況の中、一部の進歩的な生産者たちはイタリアワイン法に見切りをつけて、それぞれ独自の赤ワインを造り、海外のワイン愛好家から注目を集めるようになりました。
こうしたワインたちはスーパートスカーナ(スーパータスカン)と呼ばれています。
その先駆けとなったワインは、サッシカイア Sassicaia とティニャネロ Tignanello です。
●サッシカイア Sassicaia
14世紀からワイン造りを続け、イタリアワイン界で最も長い歴史をもつ一族がトスカーナ州のアンティノーリ家 Antinori です。
アンティノーリ家当主の従兄弟であるマリオ・インチーザ・デッラ・ロッケッタ公爵が、海沿いにあるボルゲリという地区にブドウ畑を保有しており、そこでカベルネ・ソーヴィニヨンを栽培していました。
アンティノーリから出向していた醸造技術者ジャコモ・タキス氏は、このブドウをボルドー流のワイン造り(新樽を含む小樽熟成など)によって、ボルドースタイルのモダンなワインに仕立てました。
これが、1968年に生まれたスーパートスカーナ第1号のサッシカイアです。
当時のワイン法では、トスカーナ州のDOCを名乗るのにフランス系国際品種の使用は一切認められていなかったので、サッシカイアはワイン法の最下層カテゴリーであるヴィーノ・ダ・ターヴォラとして発売されました。
サッシカイアの造り手はロッケッタ公爵のワイナリーであるテヌータ・サン・グイード Tenuta San Guido ですが、1968年から1989年までは本家のアンティノーリが販売を行なっていました。
サッシカイアは、おおむねカベルネ・ソーヴィニヨン80%、カベルネ・フラン20%のブレンドです(ヴィンテージによって異なります)。
●ティニャネロ Tignanello
フレンチスタイルで造るサッシカイアが世に出ると、アンティノーリ家はサンジョヴェーゼを使って高品質なキアンティ・クラシコを造ることにも精力を傾けました。
ここでもジャコモ・タキス氏が醸造コンサルタントとして尽力しました。
こうして1971年に生まれた "最高のキアンティ・クラシコ" がティニャネロです。
DOCキアンティとして出すこともできるワインでしたが、サッシカイアと同様ヴィーノ・ダ・ターヴォラとして発売されました。
キアンティという名前に当時つきまとっていた量産ワインのネガティブなイメージを避けるため、あえてキアンティを名乗らず、ティニャネロという畑名だけをラベルに書いたのです。
当初はサンジョヴェーゼに土着のカナイオーロをブレンドしていましたが、1975年からはその代わりにカベルネ・ソーヴィニヨンをブレンドするようになり今日に至っています。
おおむねサンジョヴェーゼ80%、カベルネ・ソーヴィニヨン20%の比率です(ヴィンテージによって異なります)。
ティニャネロは1本11,000円くらいです。
●ソライア Solaia
サンジョヴェーゼとカベルネ・ソーヴィニヨンの相性の良さがティニャネロによって明らかになったため、その比率を逆にしたらどうだろうか、という発想から生まれたのがソライアです。
おおむねカベルネ・ソーヴィニヨン80%、サンジョヴェーゼ20%のブレンド比率となります。
ソライアの誕生にもジャコモ・タキス氏が関与しています。
こちらもヴィーノ・ダ・ターヴォラとして発売されました。
ソライアはサッシカイア、ティニャネロと並ぶスーパートスカーナの先駆けですが、海外での評価が高まり、今ではサッシカイア以上に高値がついています(1本38,000円くらい)。
上記にあげた3つのスーパートスカーナは、いずれもイタリア土着品種ではない外来品種のブドウを使用していますが、
前々回ご紹介したル・ペルゴール・トルテも、"サンジョヴェーゼ100%" にこだわったスーパートスカーナだといえるでしょう。
スーパートスカーナとは、伝統的なイタリアのワイン法に縛られずに、自由にワインを造ろうという新進気鋭の発想から生み出されたものなのですね。
こうして生まれたイタリアの最高級ワインたちが、イタリアワイン法の最下層カテゴリーであるヴィーノ・ダ・ターヴォラに多数存在するという矛盾した状況は、ワイン法を管轄する行政としても放置できなくなりました。
そして結局、政府は1994年、ヴィーノ・ダ・ターヴォラの上にIGT(地理的表示付きテーブルワイン)というカテゴリを新設せざるを得なくなったのです。
その後スーパートスカーナワインはIGTとして出荷されるようになりました。
さらにスーパートスカーナ第1号であったサッシカイアは、DOCボルゲリ・サッシカイア Bolgheri-Sassicaia を名乗れるようにもなりました。
ワイン法に対するアンチテーゼとして生まれたスーパートスカーナが、その実力によってワイン法を変えさせてしまったのですから、本当にすごいことですよね!
1967年にキアンティがDOC認定されたのですが、それを機に栽培面積が急増し、数年のうちにキアンティの生産量が4倍になってしまいました。
しかし1973年のオイルショックで世界的に経済が停滞し、ワインの消費も落ち込んでしまいました。
キアンティの売上げにも陰りが見えてきたので、志ある生産者はワイン造りをもっと量から質へとシフトしていこうとしました。
ところが前々回述べたように、1967年時点のワイン法ではキアンティをサンジョヴェーゼ100%で造ることは認められておらず、品質面で劣る地元のブドウ品種や白ブドウをブレンドすることが義務付けられていました。
南イタリア産のブドウ果汁を15%まで加えることさえ認められており、品質よりも量産を目指して定められたイタリアのワイン法が、キアンティの品質向上を阻んでいたのです。
【関連記事】キアンティ・クラシコこそが本来のキアンティだった ~ キアンティを名乗れる地域が拡大してしまったため、元々のキアンティ地区がクラシコを名乗るようになったのです
そのような状況の中、一部の進歩的な生産者たちはイタリアワイン法に見切りをつけて、それぞれ独自の赤ワインを造り、海外のワイン愛好家から注目を集めるようになりました。
こうしたワインたちはスーパートスカーナ(スーパータスカン)と呼ばれています。
その先駆けとなったワインは、サッシカイア Sassicaia とティニャネロ Tignanello です。
●サッシカイア Sassicaia
14世紀からワイン造りを続け、イタリアワイン界で最も長い歴史をもつ一族がトスカーナ州のアンティノーリ家 Antinori です。
アンティノーリ家当主の従兄弟であるマリオ・インチーザ・デッラ・ロッケッタ公爵が、海沿いにあるボルゲリという地区にブドウ畑を保有しており、そこでカベルネ・ソーヴィニヨンを栽培していました。
アンティノーリから出向していた醸造技術者ジャコモ・タキス氏は、このブドウをボルドー流のワイン造り(新樽を含む小樽熟成など)によって、ボルドースタイルのモダンなワインに仕立てました。
これが、1968年に生まれたスーパートスカーナ第1号のサッシカイアです。
当時のワイン法では、トスカーナ州のDOCを名乗るのにフランス系国際品種の使用は一切認められていなかったので、サッシカイアはワイン法の最下層カテゴリーであるヴィーノ・ダ・ターヴォラとして発売されました。
サッシカイアの造り手はロッケッタ公爵のワイナリーであるテヌータ・サン・グイード Tenuta San Guido ですが、1968年から1989年までは本家のアンティノーリが販売を行なっていました。
サッシカイアは、おおむねカベルネ・ソーヴィニヨン80%、カベルネ・フラン20%のブレンドです(ヴィンテージによって異なります)。
●ティニャネロ Tignanello
フレンチスタイルで造るサッシカイアが世に出ると、アンティノーリ家はサンジョヴェーゼを使って高品質なキアンティ・クラシコを造ることにも精力を傾けました。
ここでもジャコモ・タキス氏が醸造コンサルタントとして尽力しました。
こうして1971年に生まれた "最高のキアンティ・クラシコ" がティニャネロです。
DOCキアンティとして出すこともできるワインでしたが、サッシカイアと同様ヴィーノ・ダ・ターヴォラとして発売されました。
キアンティという名前に当時つきまとっていた量産ワインのネガティブなイメージを避けるため、あえてキアンティを名乗らず、ティニャネロという畑名だけをラベルに書いたのです。
当初はサンジョヴェーゼに土着のカナイオーロをブレンドしていましたが、1975年からはその代わりにカベルネ・ソーヴィニヨンをブレンドするようになり今日に至っています。
おおむねサンジョヴェーゼ80%、カベルネ・ソーヴィニヨン20%の比率です(ヴィンテージによって異なります)。
ティニャネロは1本11,000円くらいです。
●ソライア Solaia
サンジョヴェーゼとカベルネ・ソーヴィニヨンの相性の良さがティニャネロによって明らかになったため、その比率を逆にしたらどうだろうか、という発想から生まれたのがソライアです。
おおむねカベルネ・ソーヴィニヨン80%、サンジョヴェーゼ20%のブレンド比率となります。
ソライアの誕生にもジャコモ・タキス氏が関与しています。
こちらもヴィーノ・ダ・ターヴォラとして発売されました。
ソライアはサッシカイア、ティニャネロと並ぶスーパートスカーナの先駆けですが、海外での評価が高まり、今ではサッシカイア以上に高値がついています(1本38,000円くらい)。
上記にあげた3つのスーパートスカーナは、いずれもイタリア土着品種ではない外来品種のブドウを使用していますが、
前々回ご紹介したル・ペルゴール・トルテも、"サンジョヴェーゼ100%" にこだわったスーパートスカーナだといえるでしょう。
スーパートスカーナとは、伝統的なイタリアのワイン法に縛られずに、自由にワインを造ろうという新進気鋭の発想から生み出されたものなのですね。
こうして生まれたイタリアの最高級ワインたちが、イタリアワイン法の最下層カテゴリーであるヴィーノ・ダ・ターヴォラに多数存在するという矛盾した状況は、ワイン法を管轄する行政としても放置できなくなりました。
そして結局、政府は1994年、ヴィーノ・ダ・ターヴォラの上にIGT(地理的表示付きテーブルワイン)というカテゴリを新設せざるを得なくなったのです。
その後スーパートスカーナワインはIGTとして出荷されるようになりました。
さらにスーパートスカーナ第1号であったサッシカイアは、DOCボルゲリ・サッシカイア Bolgheri-Sassicaia を名乗れるようにもなりました。
ワイン法に対するアンチテーゼとして生まれたスーパートスカーナが、その実力によってワイン法を変えさせてしまったのですから、本当にすごいことですよね!